筆界特定制度

筆界特定制度とは、筆界特定登記官が、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度のことです。

土地を売却したり登記したりする際には、隣接地所有者との境界確定が必要となる場合が多くあります。しかしいざ境界を確認しようとすると様々な理由で不調に終わってしまうことは少なくありません。例えば、立会や書類締結に応じていただけない、境界に関する意見が食い違う、そもそも隣接地所有者の行方や存在が不明である等のケースがあります。そのような場合、裁判よりも短期間かつ安価に境界問題を解決するための制度として、2006年に導入されたのがこの筆界特定制度です。

筆界特定制度の大きな特徴の一つは、扱うのが「筆界」に限られるという点です。普段私たちがよく使う「境界」という言葉は、不動産登記法上の「筆界」と「所有権界」を総称して用いられていることがほとんどです。それぞれの概念を簡略化すると、「筆界」とは土地が登記された時に登記上定められた線であり、「所有権界」とは土地の所有者間の権利が及ぶ範囲のことであると言えます。つまり「筆界」は登記上定められている線であるため勝手に移動させることはできませんが、「所有権界」は私人間の同意で移動し得るものであるということです。筆界特定制度では、専門家による調査のもと、登記上定められている元々の「筆界」の位置を特定することとなります。

筆界特定制度の最大のメリットは、その利用のしやすさにあります。時間面、費用面、精神面で大きな負担となる従来の裁判手続きと比較すると、筆界特定制度は比較的短期間(通常は半年~1年程度)かつ安価(通常は手数料数千~数万円+測量費用数十万円)に利用することができます。一方で、裁判のように筆界を確定させる効力があるわけではなく処分性もないため、その後の境界確定訴訟に対抗し得るものではありません。もっとも筆界特定がなされた後に境界確定訴訟が提訴された場合、筆界特定の結果が覆る判決が下されるケースはかなり少ないのが現実です。。

隣接地との間で境界トラブルが発生した場合は、解決手段の一つとして筆界特定制度の利用を検討なさることをお勧めいたします。

裁判外紛争解決手続(調査士会ADR)

裁判外紛争解決手続(調査士会ADR)とは、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続のことです。

筆界特定制度が扱うのが「筆界」に限られるのに対し、調査士会ADRでは最終的に当事者間の和解により「所有権界」を決めることを目的としています。あくまで当事者間の話合いによる解決を図ることが目的となりますので、相手側が話合いに応じず協力が得られない場合には手続きを進めることができません。その他の業務とは異なり土地家屋調査士であれば誰でも調査士会ADRの代理業務を受任できるわけではなく、特別研修を修了し法務大臣の認定を受けたADR認定土地家屋調査士が弁護士と共同で受任する場合にのみ代理業務を行うことが可能となります。

調査士会ADRもやはり従来の裁判手続きと比較した場合に、短期間かつ安価で境界問題の解決が期待できることは大きなメリットであると言えます。また筆界特定制度では扱えない「所有権界」に関する境界問題の解決が期待できることもメリットの一つです。

いずれにしても数ある制度の中で何を活用し境界問題に対処するか判断するためには状況に応じた専門知識を必要としますので、いずれかの制度の利用を検討されている場合は、土地の筆界に関する業務の専門家である土地家屋調査士に相談なさることをお勧めいたします。